脳のフィジックス

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長谷川建治, 吉岡亨
共立出版, 2004 - Literary Collections - 272 pages
本書は、理学部や工学部で物理学の基礎教育を受けた学部4年生や修士過程の学生を対象に、自分が学んできた物理学が脳研究にどのように役に立っているのかを示し、脳機能科学を志す学生の良き指針となることを目的としている。実際に神経や脳研究に携わっている研究者たちが、若い頭脳が生物学と物理学とが完全に融合した次世代の脳科学研究を推進することを期待して、脳で起こっている典型的な生命現象を例にとり、その背後にある共通の論理を物理学的に捉えるための基本的な方法を示すところに本書の特徴がある。
脳は、ニューロンが様々な内的・外的入力情報に対して反応し、それらに応じた組み替えや複雑な相互作用を通してまったく新しい機能を生み出す(=情報処理を行う)非線形力学場である。第1章では、脳を力学的に捉えるための基本的な方法を示す。第2章では、単純から複雑化してきた脳の機能を理解するための基本として、時間の矢(=エントロピー)の概念を詳しく記述し、具体的な例に沿って非線形非平衡系熱力学の基礎を解説する。第3章・第4章では、情報処理器官としての脳をよく理解するために、物理学的観点に立った情報理論を解説する新しい試みを企てる。第5章では、脳の電気現象を理解するための基礎となる電磁気学を実践に基づいて詳しく解析する。第6章では、ニューロン間相互作用が場としてのシナプスでの物質交換のダイナミクスの最新事情について物理学的な解説を行う。

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