地域銀行の償却・引当: 制度と実証中央経済グループパブリッシング, 2024 - 388 ページ バーゼル銀行監督委員会は、概念的には、与信ポートフォリオの期待損失に対しては貸倒引当金で対応し、非期待損失に対しては自己資本で対応するという考え方を示している。そのため、各国の監督当局は、前者については資産査定と償却・引当の制度を整備し、後者については自己資本比率規制を課している。日本では、1998年4月に早期是正措置制度が導入され、それに伴って、(1)資産査定と償却・引当の制度、(2)バーゼル銀行監督委員会の定める基準に準拠した自己資本比率規制の規定、(3)ディスクロージャー制度が整備されている。この制度的枠組みは、銀行経営者に特定の目的のために貸倒引当金(繰入額)を調整するインセンティブを付与している可能性がある。銀行経営者が、機会主義的に貸倒引当金(繰入額)を調整したり、私的情報を市場に伝達するために貸倒引当金(繰入額)を調整したりできるのであれば、健全性規制の有効性が失われるかもしれない。そこで、本書は、日本の制度的枠組みのもとでの銀行経営者の償却・引当に係るインセンティブ構造を明らかにしたうえで、地域銀行経営者の償却・引当行動に関する経験的証拠を示す。 |