フランク史: 一〇巻の歴史

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新評論, 2019 - 618 pages
ヨーロッパの「歴史(ヒストリア)」は、ヘロドトス以来、時代の個性、雰囲気を豊かに表現し、文学としてもそれなりの質と量を誇る一ジャンルを形成していた。今日の歴史書は、実証的側面が決定的に重要な「歴史学」の産物となり、読物としての「おもしろさ」の方は「文学」という別のジャンルにゆだねてしまった観がある。しかしわれわれは、かつて「歴史」がそのオリジンにおいて「おもしろい読み物」でもあったことを忘れてはなるまい。
ローマ帝国滅亡以来一世紀、混沌としたガリアの地に政治的統一をもたらしつつあったのはゲルマン人の一派、フランク人であった。この治安の悪い不安定な時代、おびただしい人物を登場させて自分の生きた社会を活写したひとりの歴史作家がいた。自らトゥールの司教としてフランク諸王からも一目おかれたグレゴリウスである。
古来『フランク史』の名で知られた彼の書物は、六世紀のガリアを、従って草創期のヨーロッパを知る最も重要な資料として今日の「歴史学」の宝庫と言ってよい存在なのであるが、一九世紀までは多くの愛好家を魅了してやまない、「フランス文学史」の中に確固たる地位を占める名作のひとつと見做されていた。
その独自の魅力を日本の読者に伝えたい思いから本書を翻訳出版して以来既に十年以上の時間が経った。今回新訂を機に久しぶりに全文を読み返し、スピード感あふれるグレゴリウスの筆力、登場人物たちの要点を捉えた会話の迫力に、訳者は以前同様、圧倒された。作者自ら「田舎臭い」と呼ぶ彼の作品は、ギリシア・ローマの古典とは異なった時代の個性をしっかりと表現している。
「歴史(ヒストリア)」と「物語(ヒストリア)」がかつて一体のものであったことは洋の東西を問わない。本書がヨーロッパを知る上で必須不可欠の書物であるとの認識が日本でも広まることは訳者の大きな喜びである。新訂にあたり誤記を改め、若干の表現に変更を加えた。(すぎもと・まさとし)

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About the author (2019)

1949年生。早稲田大学大学院でドイツ文学を学び、複数大学でドイツ語を教える。

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