呼吸器ジャーナル Vol.70 No.3: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のすべて舘田一博 医学書院, 2022 - 152 ページ 2019年末、中国武漢市で原因不明の肺炎が流行、2020年早々、その原因が新型コロナウイルスであることが報告された。これまでにも新型コロナウイルスとしてSARS、MERSが報告されていたこともあって、世界中に緊張が走った瞬間である。日本においても1月16日に第1例が、2月初めにはダイヤモンド・プリンセス号における集団感染事例が確認され、世界中からその動向が注目される事態となった。その後の世界的蔓延はご承知の通りであり、これまでに感染者は5億人を超え、600万人以上の方がお亡くなりになっていることが報告されている(2022年6月現在)。 新型病原体ということもあり、感染症の特徴、診断、治療、感染対策に関して手探りの中での対応を余儀なくされた。この間、厚生労働省クラスター対策班などの努力により、密集・密閉・密接、いわゆる3密が重要なリスク因子であることが明らかになっている。 本感染症は基本的に飛沫・接触で伝播するが、会話・発声による唾液の飛散による感染の重要性が明らかとなっている。本ウイルスは咽頭・鼻腔だけでなく、唾液腺にも感染し、唾液中に高濃度のウイルスが排出される。また、本ウイルスはACE-2を受容体として感染することが明らかとなり、血管内皮細胞などを介して全身臓器に感染する本症の特徴が明らかとなっている。重症例でしばしば経験される凝固異常、血栓形成のメカニズムを考えるうえでも重要である。 本症の診断法に関して、迅速遺伝子検査法に加えて、抗原・抗体検査が利用可能となっている。ワクチン接種も急ピッチで進行中であり、高齢者における感染者数・重症例・死亡例は確実に減少している。対象をどのように設定し、いつまでワクチン接種を続けるのかが大きな問題としてクローズアップされている。 治療薬に関しては、レムデシビルおよびトシリズマブ(IL-6受容体阻害薬)、デキサメタゾンに加えてJAK阻害薬であるバリシチニブや抗体カクテル療法、さらには内服薬としてモルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビルが承認され、治療が大きく変化している。本症と向き合って2年半が経過する中で、確実に診断・治療・予防のレベルは向上していると考えてよいであろう。 本特集では、「新型コロナウイルス感染症との対峙」をテーマに本症と第一線で向き合ってきた先生方に、疫学、病態と診断、治療、予防、後遺症、危機管理の視点から概説いただいた。最新の情報はもちろんのこと、それぞれの先生方のお考え・思いが濃縮された1冊になっていると確信している。 |