成績をハックする: 評価を学びにいかす10の方法「ハッキング」というと、「コンピューターやネットワークに不正侵入すること(ハッカー行為)」と捉えられがちですが、hackという語には「切り開く」「うまくやり抜く、やり遂げる」「巧妙に改造する」などの意味もあります。本書では最後の「巧妙に改造する」という意味でこの語を使っています。現状を変えようのないものとして黙って受け入れるのではなく、「不適切なら壊して一からつくりなおす行為」です。さまざまな問題を常に「学びを改善するためのチャンス」と捉え、成績と教育評価の分野でこの「つくりなおし」をやってしまおう、というのが本書の主題です。これは、日本の教育界に欠けている大事な視点であると同時に、いま最も必要とされる考え方・行動ではないでしょうか。 生徒たちはみんな、知りたい、できるようになりたい、成長したいと思っています。そうした思いを支えるのが教師の仕事です。しかし、個々の教師がどれほど懸命にやっても、生徒たちを「自立した学び手」に育てることができていないという現状があります。その原因の一つが評価・成績にあります。成績を付けることを負担に思う教師、苦しんでいる教師が多いにもかかわらず、それが慣習的に繰り返されています。実はこれをやっているかぎり、生徒たちの成長は阻害され続けるのです。 本書を読むことで、この負のスパイラルを断ち切るためのスタート地点に立てます。そもそも成績を付けるとはどういうことなのか。生徒が自分で自分を正しく評価し、自立的に学習を続けていける力をつけるにはどうすればよいのか。教育評価の捉え方、これまでの成績評価のかわりにやるべきこと、評価をめぐり教師と生徒たちが協力していく必要性などについて、非常に実践的に説かれています。成績をなくすことは、教師の負担を軽減し、無力感を解消するだけでなく、自立した学び手――自ら考え、判断し、実践していく人間――を育てることに確実につながるでしょう。(よしだ・しんいちろう) |