選べなかった命: 出生前診断の誤診で生まれた子

Front Cover
文藝春秋, 2018 - Reference - 245 pages
その女性は、出生前診断をうけて、「異常なし」と
医師から伝えられたが、生まれてきた子はダウン症だった。
函館で医者と医院を提訴した彼女に会わなければならない。
裁判の過程で見えてきたのは、そもそも
現在の母体保護法では、障害を理由にした中絶は
認められていないことだった。
ダウン症の子と共に生きる家族、
ダウン症でありながら大学に行った女性、
家族に委ねられた選別に苦しむ助産師。
多くの当事者の声に耳を傾けながら
選ぶことの是非を考える。

プロローグ誰を殺すべきか?
その女性は出生前診断を受けて、「異常なし」と医師から伝えられたが、生まれてきた子はダウン症だったという。函館で医師を提訴した彼女に私は会わなければならない。

第一章望まれた子
「胎児の首の後ろにむくみがある」。ダウン症の疑いがあるということだ。四十一歳の光は悩んだ末に羊水検査を受ける。結果は「異常なし」。望まれたその子を「天聖」と名づける。

第二章誤診発覚
「二十一トリソミー。いわゆるダウン症です」。小児科医の発した言葉に、光は衝撃をうける。 遠藤医師は、検査結果の二枚目を見落としていた。天聖は様々な合併症に苦しんでいた。

第三章ママ、もうぼくがんばれないや
ついに力尽きた天聖を光はわが家に連れて帰る。「ここがお兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒に寝る寝室だよ」。絵本を読み聞かせ、子守唄を歌い、家族は最初で最後の一夜を過ごす。

第四章障害者団体を敵に回す覚悟はあるのですか?
天聖が亡くなると遠藤医師はとたんに冷たくなったように夫妻は感じた。弁護士を探すが、 ことごとく断られる。医師から天聖への謝罪はなく、慰謝料の提示は二〇〇万円だった。

第五章提訴
それは日本で初めての「ロングフルライフ訴訟」となった。両親の慰謝料だけでなく、誤診によって望まぬ生を受け苦痛に苦しんだ天聖に対する損害賠償を求めるものだった。

第六章母体保護法の壁
母体保護法ではそもそも障害を理由にした中絶を認めていない。したがって提訴は失当。被告側の論理に光は、母体保護法が成立するまでの、障害者をめぐる苦闘の歴史を知る。

第七章ずるさの意味
光の裁判を知って、「ずるい」と言った女性がいた。彼女は、羊水検査を受けられなかったのでダウン症の子を生んでしまった、と提訴したが、その子は今も生きている。

第八章二十年後の家族
京都で二十年以上前にあったダウン症児の出産をめぐる裁判。「羊水検査でわかっていたら中絶していた」と訴えた家族を訪ねた。その時の子どもは二十三歳になっているという。

第九章証人尋問
裁判では、「中絶権」そのものが争われた。「中絶権」を侵害され、子どもは望まぬ生を生きたというが、そもそも「中絶する権利」などない。

Other editions - View all

Bibliographic information