ヘーゲル歴史哲学の実像に迫る: 新資料に基づくヘーゲル像の刷新ヘーゲル(1770-1831)の思想は主としてベルリン大学の講義を通して伝えられた。彼の死後、友人たちや息子により編集された全集版でヘーゲル像が形成され、その影響は今日まで及んでいる。ヘーゲルが後世に与えた影響は著作より講義であった。難解な著作に比べ、学生に分かりやすく語った講義は広く読まれ、とりわけ『歴史哲学講義』はヘーゲル哲学の入門書として受容された。この書はわが国でも長く親しまれてきたが、批判的校訂版や新たな講義録が近年刊行され、多くの問題点の指摘により信頼が失墜している。1822年からコレラで亡くなる31年までの10年間の講義は、そのつど思想内容を大きく変えていった。著者は1831年のヘーゲル最後の歴史哲学(世界史の哲学)講義の自筆原稿を検討、歪められてきた旧説を徹底的に批判し、本来の姿を明らかにする。ヘーゲルの歴史哲学については、不透明な体系の中での構成である、そこには生きた行為がない、さらに現状を正当化し未来が不在だなど、多くの評者から批判を浴びてきた。本書ではヘーゲルの思考の展開に即して、従来の批判とは違うヘーゲル像を提示した。邦訳版全集の刊行と相まって新たなヘーゲル研究の扉を開く意欲作である。 |